『おるもすと』(吉田篤弘著)

世田谷文学館20周年記念に出版された、活版印刷による本。
市販はされていない。直接、世田谷文学館まで問い合わせを。

内容は、なんてことのない話だが、ちょっとした言葉をきっかけに、様々な情景や匂いが蘇ってきたりする。崖の上の灯台、工場、石炭、パン、暮れ落ちる前の最後の陽の光、庭の野バラ…。

登場する人たちのイメージとしては、顔がぼんやりとしていて透けている感じ。『千と千尋の神隠し』で”六番目の駅”まで乗車する乗客、みたいなイメージといえば分かって貰えるだろうか?

著者あるいはクラフト・エヴィング商會(吉田篤弘・吉田浩美)の作品が心を捉える一つの理由は、自分が著者等と年齢が近いことがあるかもしれない。同じような時代を生きてきた。そして、子供の頃に経験した事をよく覚えている。決して裕福ではなかったが、一つ一つの季節が鮮明に脳裏に焼き付いて離れない。そんな感じが伝わってくるし、それに共感する。

長いあとがき(小冊子として挟まれていた)の冒頭には、「「マイ・ワイルド・アイリッシュ・ローズ」というささやかな曲があって、キース・ジャレットが弾くピアノのメロディーを耳にするたび、どうしても書き終えることのできない『おるもすと』という小説のことを考えてしまう」と書かれていた。

著者の言葉に共鳴するのも無理のないことだ。何故なら、この曲はしばしば当家のスピーカーからも流れてくる曲だから。

著者は12年間もの間、この小説を少しずつ書き続けてきた、とのこと。しかも、まだ終わったとは思えないのだという。そもそも小説に終わりってあるんだろうか?と著者は自問する。本という形態のために便宜的に一端休止しているに過ぎないのでは、と。特にこの小説はその感じが強い。幾通りもの終わり方、続き方があるように感じる。とても不思議な小説。

おるもすと


プロフィール

桃姫の飼い主

Author:桃姫の飼い主
南極大陸を横断したグリーンランドハスキー犬『キンタ』を曾祖父に持つ由緒正しい駄犬『桃姫』とその飼い主が綴る、北の空の観天”呑気”

なお、ブログ中の拙い写真・絵画イラスト・文章等の著作権は放棄しておりませんのでご留意ください。

宣言:「私は原子力を利用しない世界を求めます」

最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
ブログ内検索
RSSフィード
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる