『日本列島草原一万年の旅 草地と日本人』

日本は森の国だが、もっと草地に目を向けなければいけない。そんなことを実感させる本。

日本には昔、もっと草原が広がっていたという。
昔といってもそんなに昔じゃない。例えば、明治〜昭和の初期以前のこと。
確かに、掲載されている写真を見ると、今とは違う広々とした景観が写っている。
そして、その草原の歴史はナント!、最終氷期が終わった一万年前にも遡るという。

温暖で湿潤な後氷期には、何もしなければ植生は森に遷移する。
草原を維持してきたのは人間活動であることが分かってきた。
そんな草地のことを「反自然草原」と呼ぶのだそう。

そこには切実な理由があった。

秣(まぐさ)の確保。馬や家畜の餌として。
かつて馬は地域社会に無ければ困るものだった。
武器(騎馬)であり、移動や情報伝達の手段であった。
今で言えば、車であり、宅急便であり、あるいはスマホに相当するのかも。

緑肥の確保。田んぼや畑の肥料として。
緑肥の確保は農作物の生産性を左右する、農家にとっては死活問題だった。
沢山の米を収穫しようとすると、広い草地が必要だったんだね。
草地の境界線を巡って集落間で争いが起こったこともあったという。

ところが技術革新が生活を一変させる。
馬は車に、緑肥は化学肥料に取って代わられ、草地は不要になって放棄され、林に変わってきた。
景観がこんなに劇的に変わるって凄いことだよね。しかも、それに人間が関わっているとは!

景観の変化は、生物多様性の減少も引き起こしている。
草地は、氷期に大陸から渡ってきた草原性の動植物がかろうじて生き残ってきたレフュージア。
かつては普通に見られた生き物の多くが、今や環境省レッドリストの掲載種になってしまっている。

本書は3部に分かれていて、以下のような分担。

 須賀丈氏 →日本列島の半自然草地の概観を提示
 岡本透氏 →ひとびとの関わりの痕跡を文書・絵画・土壌から抽出
 丑丸敦史氏→田の畦など「里草地」が果たしてきた役割と現状

どれも面白かったが、仕事との関係では、丑丸氏の研究が示唆に富んでいた。
伝統的な農法で維持されている田んぼが有する豊潤さと、それが激減している現状と理由を科学的に示され、さらに今後の指針として、生物多様性が高い場所(=ローカルなホットスポットと呼んでいた)を早急に調べて、何らかの対策を立てることが提案されていた。田んぼといえば、個人所有の壁が立ちはだかる難しい問題だが、急を要する課題だと理解した。

草地と日本人
プロフィール

桃姫の飼い主

Author:桃姫の飼い主
南極大陸を横断したグリーンランドハスキー犬『キンタ』を曾祖父に持つ由緒正しい駄犬『桃姫』とその飼い主が綴る、北の空の観天”呑気”

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宣言:「私は原子力を利用しない世界を求めます」

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