『わがタイプライターの物語』(ポール・オースター・柴田元幸訳/新潮社)

引っ越しのドサクサで、長年使ってきたヘルメスの小型タイプライターが壊れてしまった。ヨーロッパからNYに戻ってきた当時、貧乏で新しいタイプライターを買う金はなかった。

そんな時、偶然にも夕食をともにした友人が、クローゼットに眠っているオリンピア・ポータブルを40$で譲ってくれることになった。1974年のその日以来、ポールが書いた言葉は一言残らずその機械によって清書されてきた。

破壊不可能と思える頑丈さ、オーバーホールのために店に持っていった回数は、その間の大統領選で投票した回数にも満たない。ちょっとしたミスで、一日の、あるいは一ヶ月の努力が水の泡に消える可能性を秘めている、コンピュータだのワープロだのは論外。

「君たちにとってよいものが、僕にもよいとは限らないさ、と私は言った。いまのままで何の不満もないのに、どうして変えなくちゃいけない?」

この本が刊行されたのが2002年(アメリカ)。日本で出版されたのが2005年。
オースターとオリンピア・タイプライターとのむつまじい関係は、いまも続いている。

翻訳者の柴田氏がオースターに会ったときに、「コンピュータに愛着はありますか?」と訊いたら、「まったくない。僕にとってそれは異質の物質であり、僕がそれを少し恐れている」という答えが返ってきたということだ。

なお、この本はサム・メッサーの小さな画集にもなっている。7〜8年、ポールの家に上がり込んでは、主人とともに愛用のタイプライターの絵を何枚も何枚も描いてきた、という。素晴らしい迫力の、しかしユーモアあふれる絵の数々が、この本をさらに魅力的にしている。
プロフィール

桃姫の飼い主

Author:桃姫の飼い主
南極大陸を横断したグリーンランドハスキー犬『キンタ』を曾祖父に持つ由緒正しい駄犬『桃姫』とその飼い主が綴る、北の空の観天”呑気”

なお、ブログ中の拙い写真・絵画イラスト・文章等の著作権は放棄しておりませんのでご留意ください。

宣言:「私は原子力を利用しない世界を求めます」

最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
ブログ内検索
RSSフィード
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる